こちらの「情熱!U-30」では、長崎で暮らす30歳以下の若者がどのような活動をしているのかを紹介します。
今の若者が熱中していることは何か。
さらに今の若者の価値観なども同時にを知ることができますのでぜひご覧ください!
第3回となる今回は、2020年10⽉に“ことはじめ”(音楽・芸術イベント)という企画を立ち上げ、2021年1月23日に記念すべき初回イベントを終えた「やぎちゃん」こと青柳智子さんへのインタビュー。オンライン配信イベントとなった当日の現場にお邪魔してきました。
”ことはじめ”代表・やぎちゃん
・長崎市出身
・趣味:人間観察、モルック
青山学院大学総合文化政策学部(東京)を卒業後に帰郷。現在は活水女子大学音楽学部研究生として、オルガンの研究を行っている。コロナ禍で観光客が減少した長崎の街を歩く中で「なんか物足りない…」と感じるようになり、大好きな長崎を盛り上げようと企画を決意。
“ことはじめ”に懸ける想いを聴いていきます。
気になる方は、ぜひ続きを読んでみてください。
質問1:なぜ芸術祭である必要があるのか?
「私は、アーティストでもなければビジネスマンでもない。公務員でもお金持ちの令嬢でもありません。そんないち長崎市民の私が、この街を舞台に音楽や芸術が自由に生み出せるきっかけを作ることができたら、大好きな長崎がもっと素敵になるのでは…!と思いました。
東京や世界からは少し距離があるかもしれません。でも、だからこそ新しいものも生まれそう。コロナ禍で帰郷した私は、そんなことを想像して一人でワクワクしていたんです。とどのつまり、「楽しそうだから」ですかね(笑)。」
芸術の催しに携わったことのない私には、やぎちゃんの想像をすぐに思い浮かべることができませんでした。自らが培ってきた得意分野を生かした地域活性化の可能性。それを体現しようと動き出す彼女のような存在が、これからの長崎を担っていくのだろうと思いました。しかし、はじめからこんな志を抱いていたのでしょうか。
質問2:今まで生きてきた中で「ここがきっかけでこういう行動をしている」というストーリーを3つ程教えてください。
「一つ目は、洗礼です。
ミッションスクールだったことがきっかけで、キリスト教の洗礼を受けた私は、クリスチャンとしての考え方を持っています。高校に進学して、大好きな音楽に囲まれて幸せな3年間を送るはずだったのに、待ち受けていたのは「逃げられない」音楽詰めの毎日。音楽を生業にすることの難しさをこれでもかというくらい見せつけられました。
ましてや多感な時期だったので、毎日朝夕の礼拝が私の救いになったんです。物事に対してひとつひとつ向き合えるようになったことで、「神様を軸としながら人生を歩む」という生き方を選びました。」
「二つ目は、上京です。
東京での4年間で、私は「物事を広く捉えられる人」になりました。学部の影響が大きいのですが、ひとつの物事に対して、どれだけの視点を持ちながら繋がりを想像できるか。客観的な判断ができるかという考え方です。目まぐるしく環境が変わる東京という街で複数のコミュニティに属していた経験は、自分の中の「普通」が、他人にとっての「普通」ではないことも教えてくれました。
“ことはじめ”の代表という立場になって、その経験を生かそうと努力しています。同時に、未熟さも痛感しているのですが…。」
「最後は、大切な人たちとの出逢いです。
中学生の頃から「大学で得るものは人との出逢い」だと父から教えられていたこともあって、漠然と「出逢い」については意識していました。その言葉通り、大学時代に出逢った人たちは、未熟な私と真っ直ぐに向き合ってくれました。
叱り、見捨てないでいてくれた人たちと過ごす中で「自分らしくいること」「くだらない時間の必要性」「隣人の経験が自分の経験になること」を学びました。帰郷してからも素敵な出逢いに恵まれています。
みんな大好き!愛してる!…ここ、不要だったらばっさりカットしてください(笑)。」
『この瞬間から!』というきっかけがないと語るやぎちゃん。ほんわかしたイメージとは相対して、地に足つけて「自分」という人間をじっくり育ててきた印象さえ感じます。ここからは、1月23日に実施した“ことはじめ”のこれまでと、これからに迫ります。
質問3:“ことはじめ”を実施するまでの苦労や難しさについて教えてください。
「最も苦労したのは開催場所です。今回は音楽が占める割合が大きかったので、「ライブハウスを使ったら?」という意見も多数いただいたのですが、普段は芸術的観点の活用がない施設で実施したいと思っていたので、そこは譲れなかったんです。
ありがたいことに、私が参加しているながさき若者会議のメンバーの方から「コワーキングスペースを使っていいよ!」と声をかけていただいて解決しましたが、今後はもっといろんな場所で可能性を見出していきたいと思っています。」
『普段は芸術と無縁と言っても過言ではないコワーキングスペースで開催できたことに価値があった』と振り返るやぎちゃん。芸術の分野で活動するアーティストと、そうではない市民が交流できる場を提供することで、長崎がもっと芸術に寛容な街になれることを願っているそうです。
「予想ができていなかったわけではないんですが、新型コロナウイルスの感染拡大も大きく影響しました。当初は感染対策を徹底した観客アリのイベントとして準備を進めていたのですが、開催日が近付くにつれて徐々に感染が広がったんです。
観客を減らすのか、開催を延期するのか…ギリギリまで迷いましたが、「今回はオンライン配信でやろう!」という決断に至りました。決断が遅かったことで告知のタイミングもずれ込んだり、運営メンバーの価値観もそれぞれ異なっていたり、私自身の至らなさを痛感した一幕でした。そんな中でも、それぞれの本音を伝えてくれた関係者のみなさんには本当に感謝しています。」
生の音を楽しんていただくことを優先するのか、次が見えない先延ばしに賭けるのか。やぎちゃんの中で沸々と湧き上がる葛藤の中で見つけたベターの選択肢がオンライン配信だったそうです。現場でソプラノ歌手の方やシンガーソングライターの方が演奏をする姿を観て、私も「生で観るべきだ」と思いました。次回は、ぜひたくさんの方に観ていただきたいです。
やぎちゃんの価値観を知るために「エンゲージメントカード」
たくさんの苦難を乗り越えながら無事“こと”を“はじめ”たやぎちゃん。続いて、この『情熱!U-30』の企画で恒例の「エンゲージメントカード」で、やぎちゃん自身が大切にしている価値観について伺いました。
「ことはじめ」も含め、自らで行動をどんどん進めている印象のやぎちゃん。やぎちゃんが大切にする価値観は「愛」「おもしろい」「知恵・賢さ」それらを選んだ理由は?
「愛」
ゲームで色々淘汰する中、「愛」だけは捨てられなかっただけです。愛するって難しいけど、だからこそ人生を懸けて考えていたいことだからです。
「おもしろい」
自分にないものを取り入れる違和感が「面白い」という言葉だけでポジティブに受け入れられるから。それが自分を成長させるから。
「知恵・賢さ」
いつも楽しい・面白いと思う時には、本能に飲み込まれず、なぜそれが面白いと思うのか、どうしたらもっと楽しくなるのかを考えてしまうから。philosophy(哲学:智を愛する)や智天使(ケルビム)から「智子」と名付けられているから。
“ことはじめ”のこれから
「ふわっと、なが~いスパンで考えているのですが、いつか長崎の街全体を舞台にした芸術祭を開催したいです。3日くらいかけて、いろんな場所で同時多発的にアーティストが演奏したり、展示をしたりするイメージです。
朝は居留地の洋館で美術を鑑賞して、お昼は出島でおいしいランチ。食後は県庁跡地のコンサートに足を運んで、夜は水辺の森公園へ。出店でテイクアウトしたごはんを片手に星空映画鑑賞会。明日は、平和公園あたりに行こうかなぁ…という感じで、芸術をハシゴできたら最高です。もちろん、長崎にゆかりのある方々と一緒に!
そのためには、利用する施設や出演されるアーティスト、そしてこの街で暮らすみなさんとの信頼関係が必要です。初めてだった今回は、3ヶ月という短い準備期間の中で「1月23日に実施する」ことを優先した結果、つらい別れも経験しました。
ただ、”こと”を”はじめ”ることができたので、今後はお一人おひとりと丁寧に向き合うこと、長崎という街をもっと知ることを大切にしながら、芸術環境を豊かにしていきたいと思っています。わたしのはじめの一歩が、みんなのはじめの一歩になりますようにと願いを込めて、今後も長崎から色んな”こと”を”はじめ”ていきたいです!」
「ことはじめ」について
「長崎から”こと”を”はじめ”ていく」をキーワードに、長崎に”こと”の”はじめ”があるアーティストや演奏家、その他文化創造に関わる方と、 長崎市民が気になっている”こと”を”はじめ”としたものを掛け合わせ、 芸術の展示および演奏の場を提供する活動団体。
この活動の目的は、長崎に縁のあるアーティストの支援・交流と長崎という街を芸術的観点から活用すること、そして長崎市民が抱く芸術に対する固定観念を払拭し、より気軽に芸術に触れたり創作できる環境を作ることである。
”ことはじめ”の活動をきっかけに、長崎のアーティストと市民・街が柔軟に行き来し、長崎でどんなことをはじめ、どんなことをはじめていくかを当事者として考える中で、長崎の街や人々の暮らしが豊かになることを願う。
参照:ことはじめ公式Instagram